必需品ブログ

安全ではありません

お引っ越し

お引っ越しをした。3年半くらい住んださいたま市から、なんかどっかに。3年半前にもお願いした、赤帽のおっちゃんに電話して、また引っ越しを手伝って貰った。
「私もあの頃よりだいぶ衰えたので、重い物を持つ時など手伝っていただく必要があるけどいいですか?」
いいともー。というわけで、おっちゃんにお願いして、やった。
白髪のおっちゃんは当時68歳とかで、鉄人だった。ひとりで2ドアの冷蔵庫を抱え、階段を上るその姿は、まさにひとりで2ドアの冷蔵庫を抱え階段を上る68歳という感じで、魅力があった。魅力がある存在には金を払う価値があり、たとえ衰えていたとしてもあのおっちゃんだ。ワクワクしながら大して荷造りもせずに、当日を待った。
「荷造り出来てないじゃないですか」
おっちゃんは既に御年70を超えているはずだが、見た目には全く衰えを感じさせず、その眼光だけで何か訴えかけていたが、こちらも既に十数回の引越しをこなしているある種のプロである。「大丈夫です」。そう言いながら、透明なゴミ袋の中にあらゆるものを放り込んでいった。おそらくおっちゃんも「なるほどだな」という表情なのか広角を上げ、マットレスを梱包する作業に黙々と取り組んでいた。僕に言わせればそのマットレスも近くのゴミ捨て場から拾ってきた当時知らない女の匂いのするマットレスで、そんなに丁寧に梱包して頂く必要はないのだが、如何せん荷造りが出来ていないという負い目もあり、この隙にという感じでお願いしてやっていった。
「重いねー。何この旅行鞄。やたら重いんだけど、砂でも詰まってる?」
梱包が終わり、積み込みの段階でおっちゃんが怪訝な様子で言ってきたのは、このキャリーバックである。


このキャリーバックには、早い段階で優先順位という名の捨てられない呪いのかかった書籍が詰め込まれており、ただ単純に重かった。当時の僕の想定では、なんせキャリーバックなのでタイヤが付いており、タイヤが全てを解決してくれると考えていたのだが、引越し前の部屋も引越し後の部屋も2階以上であると同時にエレベーターが無く、ただシンプルに紙とも砂とも判断のつかない何かが詰め込まれた箱を人力で運ぶという苦行が展開されてしまい、すいませんという気持ちで「へへヘ」と笑うことしか僕には出来ませんでした。こうやって、人は少しずつ成長していくしかない。キャリーバックを引越しの最適解として4つ買ったとしても、砂の詰まった四角い入れ物として抱き抱えて移動するしかないことは、実際に買ってから引越しをこなすまで分からないことです。これで僕も今後キャリーバックを引越しのお供としてまとめて4つ買うことはないでしょうし、おっちゃんも、どういうことかやたらと重いキャリーバックを怪訝な表情で運ぶこともなくなるわけです。成長がありました。
「ひとつくれっけ?」
引越しなので、玄関ドアを開けっぱなしで作業していたところ、引越し前の物件の階段などの掃除を定期的にやってくれていたおばちゃんが玄関ドアの内側に磁石で付けていたフックを一つ欲しがったため、差し上げました。この時が僕とおばちゃんとの初めての会話でしたが、磁石のフックを差し上げたおばちゃんは「記念だからなあ」と言い喜んでおり、僕も何か心が暖かくなる感覚を覚えました。引き続きやっていきたいです。