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やっていくからな

猫とワゴン車

人物
斉藤美和(13)
斉藤達郎(38) 美和の父
斉藤直美(故34)美和の母
足立加奈子(35)美和の叔母

○ 斉藤家・外観(夜)
   田舎の小さな平家の戸建て。カーテンのかかった縁側のガラス戸から、室内の明かりが漏れている。

○ 斉藤家・仏壇のある部屋
   6畳ほどの畳の部屋。簡易的な仏壇が設置されており、そこには斉藤直美(34)の遺影。黒い縁取りの中で直美は微笑んでいる。白塗りの壁に背中を押し付けられ、斉藤美和(13)は斉藤達郎(38)に首を絞められている。声が出ない美和。達郎はおぞましい表情。美和の唇が「パパ」と動く。それを見て破顔する達郎。美和の首を絞めていた手を解く。げほげほと咳き込む美和。
達郎「ごめん、ごめん。美和は俺が守るから、守るから」
   泣きながら美和を抱きしめる達郎。苦笑う美和。

○ 斉藤家・外観(朝)
   晴れ渡った空。庭の紫陽花には蕾が付いている。

○斉藤家・仏壇のある部屋
   セーラー服姿の美和は、直美の遺影に手を合わせている。首回りが赤くなっている。立ち上がり隣の部屋に続くふすまを開ける。

○ 斉藤家・リビング
   絨毯の敷かれた部屋。コタツ布団のかかっていない掘り炬燵が中央にある。掘り炬燵に足を入れ、惚けている達郎。
美和「私、行くね」
達郎「ああ」
   玄関の戸を開け、出て行く美和。惚けたままの達郎。

○ 斉藤家・玄関外
   玄関横のスペースにある自転車に跨る美和。手に持っていたバックを前かごに入れ、代わりに前かごから自転車のヘルメットを出して頭に載せる。首ひもを巻こうとするが止める。自転車を漕ぎ出す。

○ 県道232号線
   田舎の道路。車の通りは少ない。自転車に跨った美和はペダルを漕いでいる。暫く進み、舗装されていない細い道に曲がる。

○ 細い道
   砂利道の上には所々草が生えている。ペダルを漕いでいた美和は、自転車から降りる。手押ししながら進むと、山の入り口のような場所に着く。その横には苔の生えた、今は動きそうに無いワゴン車。美和はその前に自転車を止め、ワゴン車の中に入っていく。

○ ワゴン車・車内
   おんぼろな車内だが、掃除されている形跡がある。美和はワゴン車の後列の席に行くと、バックをそこに投げて自分もドサッと腰をかける。少しの間ぼーっとすると、席の下から何冊かの漫画と雑誌を取り出す。漫画を読みだす美和。ゴロンと横になる。漫画のページを捲って、ニヤリとする美和。

○ ワゴン車 (夕)
   寝てしまっていた美和。室内は夕焼けで赤く染まっている。美和は立ち上がり外に出る。自転車に跨り漕ぎ出す。

○ 斉藤家・玄関外(夕)
   薄暗い中、美和は玄関横に自転車を止める。縁側のガラス戸から光は漏れていない。
美和「あれ」
   玄関を開け、中に入る美和。

○ 斉藤家・リビング
   暗い室内。
美和「ただいまー」
   美和は掘り炬燵の上に置いてあるシーリング電灯のリモコンを手にし、ボタンを押す。明るくなるリビング。
美和「パパー、居ないの?」
   仏壇へ続く襖を開ける美和。襖を開けると、そこには天井から伸びた縄で首をくくり、ぶら下がっている達郎の姿。
美和「……嘘つき」

○ 斉藤家・外観
   入り口に花輪が二つ並んでいる。家の前の道路の端には、車が複数台停まっている。黒い礼服姿の大人が何人かいる。お坊さんの読み上げるお経が聞こえる。

○ 斉藤家・仏壇のある部屋
   リビングと仏壇のある部屋の間の襖が取り外され、ひとつなぎの部屋になっている。お坊さんがお経を読んでいる。お坊さんの背後では礼服姿の大人が数人、正座してそれを聞いている。その中にセーラー服姿の美和。首をガリガリと掻いている。

○ 斉藤家・外観(夜)
   あたりは静まり返っている。斉藤家の前の道路端にはまだ、車が一台停まっている。

○ 斉藤家・リビング(夜)
   セーラー服姿で、布団のかかっていない掘り炬燵に足を入れている美和。首をガリガリと掻いている。対面には礼服姿の足立加奈子(35)が正座している。
加奈子「一人でって訳にはいかないでしょ、あなたまだ中学生なんだから」
   俯いている美和。首をガリガリと掻く。
加奈子「あなた、それやめな!」
   首を掻くのを止める美和。
加奈子「とにかく、考えておいて」
   立ち上がり、玄関から出て行く加奈子。

○ 斉藤家・外観(夜)
   加奈子は玄関から出ると、道路端に止めた車に乗る。エンジンをかけるて走り去る加奈子の車。

○ 斉藤家・外観(朝)
   庭の紫陽花が咲いている。

○ 斉藤家・リビング
   セーラー服の上を着ながらリビングに歩いてくる美和。立ち止まり自分の服装を見る。奥の部屋に戻っていく美和。

○ 斉藤家・玄関外
   パーカーとジーンズ姿の美和。自転車の前かごからヘルメットを出すと、地面に置く。自転車を乗り出そうとすると、ポケットのスマホがピコーンと鳴る。スマホを取り出すと、LINE受信「加奈子おばさん」のポップアップ。開くと「今日の夜8時頃に電話します。その時に答え聞かせて」の文面。スマホをゆっくりポケットにしまう美和。

○ 斉藤家・リビング(夜)
   掘りごたつに突っ伏している美和。こたつの上にはスマホスマホのデジタル時計は23時32分と表示されている。
美和「嘘つき」

◯斉藤家・美和の部屋(夜)
   6畳の部屋。布団の中で、自分の首をガリガリと掻き毟る美和。

◯ワゴン車
   車内の後部座席で、パーカーにジャージ姿の美和は、ぼけーと横になっている。風を通す為、車の窓とドアが少し開いている。ドアから痩せ細った猫が車内に入ってくる。猫の首にはガムテープが筒ごと減り込んでおり、重そうにしている。睨むような目をした猫は、ニャーと美和に向かって鳴く。
美和「どうしたのそれ」
   猫は再度「ミャー」と鳴く。
美和「待って、外してあげるから」
   猫を捕まえようと席を立つ美和。猫はドアから逃げていく。
美和「外してあげるのに……」

◯斉藤家・仏壇のある部屋(朝)
   睨むような目つきで起きてくる美和。パーカーにジーンズ姿。首周りが血で滲んでいる。仏壇には達郎と直美の遺影が並んでいる。美和は両腕でそれを払う。畳の上に遺影が転がる。

◯斉藤家・玄関外(朝)
   雨が降っている。傘をさす美和。自転車の前まで行って、自転車を蹴り倒す。

◯ワゴン車・外
   雨が降っている。ワゴン車のドアの前で、首にガムテープの筒が減り込んだ猫が死んでいる。動けないでいる美和。
美和「なんで死ぬんだよ…… なんでしんじゃうんだよ」
   傘をワゴン車に投げつけ、膝をついて泣きわめく美和