魔法少女になりたかったのにハゲた
俺は30代の男だ。いつからか魔法少女に成りたいと願うようになった。
なんでだろう、よく分からない。少年時代は自分の自転車に仮面ライダーのバイクの名前を付けていたのに、気づいたらなりたいのは魔法少女だった。
小学生の頃、『姫ちゃんのリボン』が好き過ぎた。アニメを妹と観ていて、最終回で終わるときに一緒に号泣した。放映していたTV局に抗議すると言って、かける電話番号も分からないのにかけたフリをして、「終わらせないで下さい!」みたいなことを言った気がする。黒歴史過ぎてもはや恥ずかしくない。
当時、小学校の同級生の女の子のことを「姫ちゃん」と呼んでからかっていた。普通の小学生男子だ。好きな娘をからかうなんて典型的だろ。
「姫ちゃん」を手に入れようという意思はあった。だから俺は作中のヒーロー・大地くんになろうとして、大地くんの趣味である自転車にハマった。自転車に乗って、隣町や隣の隣町まで勝手に行ってしまう小学生になった。その後自転車好きを拗らせて、高校では自転車競技部に入ることになる。とにかく、姫ちゃんを手に入れようという意思はあった。
『魔法陣グルグル』も大好きだった。ククリが可愛すぎて、一緒に旅ができるニケに憧れた。「勇者さま〜」って言われたくて、大学生の頃アニメ声の同級生に言ってもらったりしていた。「おお!」って、「おお!」って思った。あれは間違いなく男としての「萌え」の感覚だった。
だからいつからなのか分からない。「手に入れたい」を「成りたい」が凌駕したのがいつからなのか。
結局「手に入らないじゃん!じゃあ俺がなる!」ということなのかな。
しばらく前に書いた『ククリと魔王討伐の旅がしたかった』という記事で、締めの一文を俺はこう記している。
なんなら、俺がククリになるわ。最悪、俺がククリになる。
”最悪”としている。やっぱり、出来ることなら手に入れたいのだろうか。
いや違う。この”最悪”はエクスキューズだ。もう逆転している。本当はやっぱり魔法少女になりたくて、成る言い訳を探してるんだ。「もう手に入らない」と分かれば、「自分が作るしかない」となる。かわいいは、つくれる。なら、魔法少女にだって、成れる。
ここで問題がある。ガタイだ。俺はガタイがいい。高校時代運動部でしごかれたのもあるし、父親がボディビルダーだったのも大きい。父親がホットケーキを焼く際、ホットケーキミックスにプロティンを混ぜられて焼かれていた。筋肉の英才教育みたいなものを、施されて育った。
俺はビスケだ。本来の姿のビスケ。彼女はあの姿に戻るのを嫌がる。俺だって嫌だ、こんな姿で居たくない。もっと愛らしい存在になりたい。
ビスケのようなキャラクターの存在も、『俺、ツインテールになります。』のような作品のヒットも、俺みたいな男のこういう願望の具現化に他ならない。ヒロインになりたい。ヒーローじゃない。今の時代の僕らは最早、強くて可愛いヒロインになりたいんだ。
と、ここまで来てタイトルの議題である。だいぶ薄くなってしまった。平たく言えば、ハゲた。ハゲはつらい。だって、ツインテールにできないもの。完全に主観だけど、ガタイのよさはまだ望みがある。変身すれば縮む。
でもハゲは駄目だ。変身しても髪の毛はどうしようもないよ。だって、毛根が死んでるんだもん。死んだ毛根は、変身しても死んだままだよ。
何かを差し出せば行けるだろうか。制約と誓約……弱い。死んでしまった毛根は、現代科学だって再生できないんだから。だけど、科学を超えて奇跡を起こすのが魔法だろ?なら行けるだろ。契約するタイプの魔法少女ならいけそうだ。代償として、毛根の再生を願う。でも、それでも魂は差し出したくないよ……。
魔法少女になるにあたっては元より、男が女性性を手に入れる鍵として、髪の毛は重要だ。例えば萩尾望都『11人いる!』の中で、両性未分化だったフロルは、長髪を手に入れる事によって突然部屋で襲われるまでの美少年になる。文庫版の『11人いる!』に掲載されたエッセイの中で、中島らもはこう書いている。
フロルの登場シーンを見てほしい。ヘルメットからまず豊なブロンドがこぼれ出し、フロルの美しい顔が現れる。それを見て全員が女性だと騒ぎ出す。フロルもまた女性性(髪の毛)を冠にして、首から下は少年のままこの宇宙船に乗り込んできたのだ。
首から下が少年だって、お乳がぺったんこだって、サラッサラの長い髪をなびかせれば少女になれる。
ん?少女になれればいいのか?魔法少女じゃなくて、少女になれれば満足なんだろうか。否。それなら少年だっていい。そういうことじゃねえんだよ、奇跡を起こす存在だ。変身するんだ。このクソみたいな身体を投げ捨てて、違うものになるんだ。じゃあ少女だし、魔法だし、魔法少女なんだ。俺は、いや僕は、もといあたしは! 魔法少女に!! なりたいんだ!!!
魔法少女になりたいんだ!魔法が使えないなら死にたい!魔法が使えないなら死にたい!魔法が使えなら死にたい!
この記事は『私が魔法少女になれなかったわけ。(1) 26歳 - ぶろぐはぶろぐ。』に感化されて書きました。リンク先のような水色の文章にしたかったのに、こんな感じになりました。
現実の自分はこんなだけど、パラレルな世界ではもしかしたら魔法少女かもしれないし。とりあえず猫が飼いたいよ、ポコ太と名付けたい。あとは安定した職に就きたい。この冬もボーナスは出なかったよ。
- 作者: 押見修造
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