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孤独では無いと思った

創作

職場の同僚が年内で辞めるということで先日送別会をしたのだが、今日が最後の出勤らしく親しい人達に惜しまれていた。私は親しい訳ではなかったので早々にその場を後にしたのだけど、有給をどう消化したのかとその部分だけ気になった。

 
帰り道のセブンで蓋のついたワイン缶を買った。300mlのそれはちょっと酔うのに効率がいい。ビールが飲みたかったけどそれには蓋が付いていないし、私が酔うにはアルコールが弱い。スパークリングワインのつもりが店舗の配置ミスと私の確認漏れで赤ワインを買ってしまった。一口飲んでしゅわしゅわしないと思った。
 
そのセブンはFFが弱かったので近場のファミマまで歩いてチキンを買いに行った。辿り着いたファミマではクリスマスというのもあって沢山のチキンが並べられていて、そこにはサイと呼ばれる部位もあった。へー今のファミマではサイも扱っているのか、と思った。この部位は油っぽくて好みはあるだろうけど私は好きなのだ。一切れだけ買って、食べながら駅まで向かった。時々ワインをぐびっと飲んだ。
 
甘いものが欲しいとは思わなかった。甘い系のお菓子は辞めた同僚がよく配っていて、私は頻繁にそれを食べていた。彼女は結婚することを理由に退職したのだけど、口癖が「私は孤独」だった。何を言ってるんだろうと思った。確か猫だって飼っていたはずなのに。それなら私の方がずっと孤独じゃないか。恋人はおろかペットだって飼っていないし、当然結婚の予定だってない。彼女の孤独は私にはファッションのように思えてそういう服を着たいんだろうなと思った。
 
私は電車に乗ってスマホを弄りながら窓の外を見ていた。私は孤独では無いと思った。だって幸せだから。明日は休みだし明後日も休みだ。そう考えるとぼんやりした幸福感が身体を包んだ。すぐに元に戻ってしまったけどそのあと便意を催し、途中下車して用を済ませた。私はすっきりしたことにより新たな多幸感に包まれそれは暫く続いた。私の近年の幸福の最たるは排便後のそれであり、よって私はいつだってそれを心待ちにしている。何かを楽しみに待つことが出来る私は孤独では無いと思った。
 
自宅アパートの最寄駅で下車して、ゲオでDVDと漫画を借りた。その最中にAmazonで注文した中古で1円の本が発送されたとメールが届いて、私は孤独じゃないと思った。私を気にかけてくれる人達が世の中に沢山いて、お陰で世界は廻っているんだと思えた。それは孤独じゃなかった。
 
アパートに着くと家の中が外より寒いような気がして石油ファンヒーターのスイッチを入れた。ピピピッピピピッと繰り返し、灯油が切れていることを告げた。私は孤独じゃないと思った。何かを私に伝えてくれる存在は人に限らず、自宅アパートの中にだっているんだと思えた。私は孤独では無いと思った。
 
毛布に包まるには早すぎると思い、赤いポリタンクを自転車の前かごに入れてをペダルを漕ぎだした。頬を切る風は冷めたかったけど私は孤独じゃないと思った。セルフスタンドで給油する際も孤独は感じなかったし、走り出した時に重くなった前かごでハンドルがぐらついても心は揺れなかった。
 
帰り道でさっき買った灯油を畑の土に給油した。ポリタンクは川に投げた。自転車でどこまでも行ける気がした。すぐにアパートに着いた。鍵はかけていなかった。そこには誰も居なかった。それでも、私は孤独では無いと思った。