怪作。面白い漫画は沢山あるけど、こういう印象を受ける作品ってそうそうない。単行本としては2004年が初版。講談社BOXで完全版が出ており、そちらだと1巻完結。短い巻数の漫画で言えば近年なら『ちーちゃんはちょっと足りない』級であり、『ネムルバカ』や『レベルE』と並んで評価されていてもおかしくない漫画だと思う。ただ、個人的にドツボだった為に過大評価している可能性も否定できない。なのでそのつもりでこの文章は読んでもらえたら。各漫画賞設立直前の、短い巻数の漫画が脚光を浴びにくかった最後の時期の傑作だと思う。って完全版出てるから最低限の評価はされてるわけだが。
1巻は短編集。「こぐま」と名乗る少女が多くの短編に顔を出し、道先案内人の役割を担う。ホラー調な各短編の完成度もわりと高く、特に「この世で一番不幸な人」という一編は14Pの短さで登場人物のキャラクタをしっかり描いた上に余韻まであるというなかなかの出来。
唯一続き物の話として「チチェ」という世界の話がある。これは女を拉致監禁した男が真っ白な部屋の中で女に謎の言葉を教育し、日に3回食事を与え続けるというもの。中盤以降、この物語が『こぐまレンサ』という作品の根底にありきっかけの物語であることが徐々に分かっていく。
2巻は道先案内人であった「こぐま」に焦点が移り、謎の存在だった彼女を中心に物語が進む。「こぐま」という存在を描く話と交互に「チチェ」という世界とその登場人物の物語が進行し、その過程で独立した短編だと思っていた物語が大きな物語のピースであることが判明していく。
僕が読みたかった漫画だった。こういう作り、まず短編をやってその短編自体も面白く、さらに後から大きな物語で短編の伏線を拾いまくって作品を仕上げるっていうのは、小説ならありそうだけど漫画では他にない気がする。いや分かんないけど、僕は初めて読んだ。
うめざわしゅんの「一匹と九十九匹と」という漫画は今のところ出てるのが2冊で、1巻では短編をやり、2巻はまる1冊使っての物語だった。2巻読んだ時の「こんなん描いたら作者こころやっちゃうでしょ…」という衝撃はなかなかのものだったけど、それぞれ独立したお話だった。たぶんそれ読んだ時に「まず短編をやって後から大きな物語で短編の伏線を回収していく漫画が読みたい」って思った気がする。
うめざわしゅんについては『ユートピアズ』という短編集について以前に記事を書いてて、『こぐまレンサ』の1巻はこのユートピアズにかなり近い雰囲気だと思う。世にも奇妙な物語で映像化されそうな感じ。
『世にも奇妙な物語』が好きな人にオススメしたい漫画、うめざわしゅん『ユートピアズ』 - 必需品ブログ
あんま関係ないかもしれないけど、この漫画読み終わった後にM-1グランプリ2001の麒麟のネタが見たくなって見返してみた。この時のネタは「漫才に小説の要素を入れたら分かりやすくなる」という発想の元、1つの漫才が二分割され、同じ動きのネタを2回繰り返すというもの。2回目は1回目の動きに解説や心情描写が加わることになる。
あの漫才を初めて見たとき、凄く面白いものを見たと思ったし、新しいと思った。短編とそれを回収していく物語に二分割されている点と、その新しさに近いものを感じたのかもしれない。まあ『こぐまレンサ』も10年以上前の漫画ですけどね。
作者であるロクニシコージの著作には他に『すべてに射矢ガール』という作品がある。この漫画は頭に矢が刺さった女の子がヒロインという以外はほのぼのとしたコメディだったと思うのだけど、変な魅力を感じて当時ヤンマガ読むときは目を通してた。いかんせん『こぐまレンサ』が凄かったので、そちらもしっかり読みたくなった次第です。
惜しいことにロクニシコージ氏はこの作品のあと漫画は描いていないらしい。うめざわしゅんも10年くらいの作家生活の中で3冊しか著作ないし、量産できないタイプの漫画なんだと思う。ほんの一時期しか備わってない感受性とか、一作仕上げたら消えちゃう何かってあると思うし。それ考えると阿部共実のあの作風でのあの生産性はおかしいとも思う。
ちなみに絵柄はこんな感じ。
上手くはないかもしれないけど、味のある絵柄だと思うんだよね。
ホラー調の秀逸な短編から、それらを回収するミステリへ。『こぐまレンサ』、すごく良かったです。
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