俺と、俺と顔が似ている3人

 「似ている」などと言われても、嬉しいことはあまりない。それが「顔が似ている」なら尚更で、他人と顔が似ていようが似ていまいがどうでもいいからだ。
そして、俺はあまり「顔が似ている」と言われない。それは、褒めて喜ばれるようなタレントやそれと類似の顔でないからなのだけど、それでも過去に数度「似ている」と言われたことがある。

1度目は高校時代。通っていた偏差値40台の、運動しかしていない奴らが集まった学校のそのクラスに、カタハバという奴が居た。カタハバは水泳部で、肩幅が異様に広かった。パッと見イケメンながらも最初の目線が必ず肩幅に行くという、そういう存在。そいつが言った。
「俺とひっちーは目が似てると思うんだよ」
俺こと必需品は界隈では”ひっちー”と呼ばれていて、記憶の中のそいつは例に漏れず俺のことをひっちーと呼んだ。
「どう思う?」カタハバが続ける。
俺は正直、カタハバのことをイケメンだと思っていたけど、同時にアホだと思っていた。だが、アホとはいえイケメンに「似ている」と言われ、俺は一瞬喜んだ。そしてすぐに気づく。こいつ、確かにイケメンだけど、目が唯一のウィークポイント的なところある。
顔立ちってのはバランスの問題で、カタハバの顔面は確かに整っている。しかし目だけ切り取ったらどうか。ややきつい印象のカタハバの目は、パーツとしてさほど優秀だと思わない。むしろ、お目めだけだったら俺の方がパッチリしている。
「似てないだろ、お前はイケメンだけど、俺の方が目はかわいい」
俺も偏差値40台なので、そんな答えになった。するとカタハバは、「そうかな、似てると思うんだけどなあ」と言って、その場を後にした。どこか切なそうな後ろ姿を見て、やっぱアホだな、あと肩幅広っ、と思った。

2度目は20代中頃、妹に言われた。かりゆし58というバンドの、ボーカルに似ているとのことだった。妹はLINEでそのバンドの「アンマー」という曲のURLを貼り付けて、俺に送ってきた。
PVの中でそのボーカルは、髪を長く伸ばし、ヒゲを蓄えている。ピンとこなかった。俺は髪は長くないし、ヒゲを蓄えたこともない。しかし妹は続けてLINEを送ってきた。
「おとうにこのPV見せて、兄ちゃん今こういうことやってんだよって言ったら、おとう感動して涙ぐんでたよ」
へんなことを言っている。なんでそんなことをするんだろうと思っていると、次のメッセージが来た。
「そのあと、これ兄ちゃんじゃないからって言ったら、おとう怒ってたわ」
そりゃそうだろと思った。声も全然違うし。なんでそんなことするんだろうこわい、と思った。

3度目は2年くらい前。何年かぶりに連絡をくれた友人と飲んだ翌週のこと、その友人がまた一緒に飲もうと言ってきた。お前と似てる合わせたい人がいるから明日、とのこと。
だいぶ急だったのもあり躊躇したが、似ている人と言われ興味が湧いた。「どう似てるの?」と聞いたところ「お前と一緒でさ、以前漫画描いてた女の人なのよ」とのこと。俺は「女子」と思いさそいを承諾した。
待ち合わせ場所に行くと2人はすでに着いていた。友人の横にいるその人を見て、早い段階で気づく。頬のにきび跡が俺と同じなど、顔が似ている。
以前漫画を描いていたとかそういうことではなく、シンプルに顔が似ている。具体的に言うと、かりゆし58のボーカルに似ている。
かりゆしが言う。「急に言われたんですよ、以前漫画を描いていた似てる人がいるから紹介したいって」
かりゆしもどうやら目の前の男が自分と顔が似ていることに気づいたらしく、訝しげな表情を浮かべていた。
その後、居酒屋で3人で飲んだ。友人は純粋に似ているから合わせてみたいとのことだったようだが、顔が似ている件については何も言わなかった。序盤で店員が酒をこぼし、それによってかりゆしの服が濡れ、終盤に友人とかりゆしの頼んだアイスが2段になった。それを見ていた俺は店を後にしたのちアイスが食べたくなり、サーティーワンに行くと言ったところ2人もついてきて、友人とかりゆしがまたアイスを食った。なんか2人とも食い意地が張っていて嬉しかった。

俺も30代半ばになり、カタハバが今なにをしているのか知らない。かりゆし58のその後も知らないし、友人とかりゆしがいま何をしているのかもしらない。だけどあの日のカタハバの切ない後ろ姿、妹の意味わからなさ、友人とかりゆしの食い意地などは心地よく思い出される。

それだけじゃお腹が空くにしても、思い出はいつも綺麗なのだ。


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