その娘は、芝の上にケツを出して座っていた

僕はわりと夏が好きなのだけど、その理由はいくつかある。スイカやとうもろこしが美味しいことや、夜道を歩くのが気持ちいいこと。花火やバーベキューなんかも楽しいし、ひぐらしの鳴き声がすごい好きだってこともある。けど、そんなのは結局のところおまけの理由でしかなくて、僕が夏のことを愛する理由は、ほんとはもっとシンプルだ。女の子が、薄着になるからです。

いやね、もしかしたらゲスな理由だなって思われるかもしれないんですけど、結局のところこれが一番重要ですよね。他のなんて二の次三の次ですよ。
最近は山の手線に乗ることがけっこうあるんですけど、原宿駅で乗り降りする女の子のかわいさには、必需品さんびっくりしてしまいます。もうさ、ことごとくがキューティクルですよね。かたっぱしから蝋人形にして行きたいところなんですけど、知識と経験が足らず具現はとても出来そうにない。仕方ないからリカちゃん人形のスカートをめくったりして気を紛らわせております。「いやーやめてー!」「へっへっへ 苦しゅうない苦しゅうない」とか人形劇してる。

ただ、女性の露出が増えるのはいいんですけど、同時に男も薄着になるのが困りもんですよね。男の薄着って、醜いでしょ。もうさ、すね毛とか筋肉なんて公害以外の何者でもないですからね。都の迷惑防止条令で男子の薄着を規制していただきたい。

そいや大学生の頃、この時期はよく体育館とか借りてサッカーなんかやってたんですけど、この時期にスポーツしようものならすごい汗かくじゃないですか。それで、汗かいたから着替えをしなきゃってことで更衣室で着替えてたんですけど、そんな中、Y君っていう友達がなんか僕の上半身をじーっと見てたんですよね。僕は自分の体になんかついてるのかなって思ってY君に「何かついてる?」って聞いたんですけど、その際Y君がこんなこと言ってきたんですよ。

「必需品の乳首、イメージと違うわー。」

おいおい、どんなイメージ描いてたんだよ。
というか、なんで同姓の乳首のビジュアルを脳裏に描いてんだよ。そう考えたらしばらくの間Y君のことがキショく感じられてしまったんですけど、なんかそんなことを思い出してしまいました。彼は今、なにをしているのでしょうか。

そういえばY君つながりなんですけど、彼とNさん(仮)が、二人で芝生に座って雑談していた時がありました。僕はそれを見つけて途中から仲間に入れてもらったんですけど、なんか突然、Y君がデリカシーのない発言をNさんにしたんですよね。僕はそれを聞いて笑ってたんですけど、なんかちらっとみたらそのNさん、ものすごいへこんでる。僕は「えー?」と思ったんですよ。

なんせ、その人はわりと凛とした感じでしたから、ちょっとくらいなんか言われてもダメージ受けたりしなそうだったんですけど、意外に打たれ弱いのかウィークポイントだったのか知らないけどすごいへこんでる。僕は、別に気にすることないじゃねーみたいな適当なこと言ってたんですけど、事態が好転しそうになかったんでY君に助けを求める意味でちらっと視線を送ったんですよね。そしたらY君、なんかすごい真剣なまなざしで斜め後ろのほうを凝視してた。

僕はさすがに、なんでやねんと思いまして、Y君にそのまま視線を送り続けたんですけど、なんか彼、今まで付き合ってきた中で、僕には見せてこなかった真剣な表情で何かを見つめ続けてるんですよ。僕は「こんなに情熱的な彼の瞳を始めてみた!」と思いまして、彼の視線の先に目をやったんですけど、そこには信じられない光景が広がってたんですよね。

なんかNさん、当時流行っていたローライズのジーンズをはいてたんですけど、これでもかといわんばかりにケツが出てるんですよ。それも、ちょっと出てしまいましたわおほほというレベルではなく、見さらせ私の生き様を!とか、そんな勢いなんですよ。具体的にいうと、割れ目が完全にハローって言ってる。

僕もさすがに、そんな馬鹿な!と思いました。もしかしたらつっこみ待ちなのかなって。
「ケツ、でとるやんけー!」というつっこみを、今か今かと待ち望んでるのかなって思ったんですよ。
けどさ、どう考えてもそんな雰囲気じゃないんですよね。彼女、相変わらずへこんでますから。もうさ、なんかへこみながらケツを出してる女子とそれを凝視している友達というへんな風景が綺麗なはずのキャンパスに描き出されてしまってるんですけど、それがだんだん面白くなってきてしまいまして、僕は笑い声を噛み殺すのに必死です。しかし、Y君はまたしても信じられない発言を繰り出しました。

「あ、じゃあそろそろ俺いくわー。」

放置だと? そんな馬鹿な
おいおいY君、この状況、何ひとつ解決してないぜ、あんたの発言でへこんでらっしゃるNさんと、本人の意思に関係ないところで完全にハローって言ってるケツ。せめて、どっちかフラットにしてから行ってくれ!

しかしY君はすっと立ち上がると、そのまま半笑いの表情でどこかへ行ってしまいました。僕はどうしようかと考えたのですが、僕の話術ではへこんでいる人を立ち直らせることはできそうにないので、せめてケツが出ていることを本人に教えてあげることにしました。気づかないふりをするのが優しさかもしれませんが、そうした場合は今後いろんな場所で割れ目がコンニチワすることになってしまい、根本的な解決にはなりません。僕は、極力いやらしくならないように、これは面白いことだからといったニュアンスを込めて、できる限りスマートにそれを指摘しようとしました。本人も案外言われてみれば、「あちゃー」などと言いながら舌をぺろっとだすといった古典的表現を繰り出してくるかもしれません。僕は笑いながら言ってみました。

「Nさんさー、」
すると、まだ本題まで言っていないにも関わらず、僕の笑い声などから全てに気づいたのでしょう。Nさんは一瞬顔を上げたあと、ばばっとケツに両手を持って行き、そして「何かありましたか?」といった感じのすまし顔を浮かべていらっしゃいました。僕はそのあと続けて指摘することができず、
「あれだよねー、色白だよねー。」
などと、別にNさんは色白でもないのに、意味不明な発言をしていました。

僕はそのあと、なぜか妙に恥ずかしくなってしまい、テニスコートの金網に体当たりをしたりしながら帰路に着きました。テニスサークルの人が、コートの中でものすごく迷惑そうにしてた。

僕の乳首はY君のイメージと違ったかもしれないけど、NさんのケツはY君のイメージと比べてどうだったのでしょうか。