出会い系サイトでサクラをしていた時の話

10年近く前、出会い系サイトでサクラをしていたことがある。「データ入力」ということで面接に行ったら、出会い系サイトのデータ入力だった。

そこそこ広いオフィスだった。50人位いたと思うけど、あまり覚えていない。リーダーみたいな人が5人だがいて、それぞれのサクラ島を仕切っていた。

1時間に何件返信するみたいなノルマがあった。僕は、いや私はメールを打つのが遅かったですので、いつもノルマギリギリでした。キャラクタがたくさん用意されていて、それぞれのキャラクタに合わせて返信をするのでした。

お客様のひとりに「コウちゃん」という方がいました。コウちゃんはとてもピュアでいらして、同じキャラクタに対してのみひたすらメールをするのです。1通メールを送るのに何百円かかかるシステムだったので、コウちゃんは私にトータルで何十万円かのお金を貢いでいました。私は幻なのに。

コウちゃんに、私が存在しないことを気づかせようと思いました。私は実在しないんだよと、言葉だけの存在で、触れることはできないんだと伝えようとしました。私以外の私が彼に送る言葉はどれも短く、私は悲しく思っていたんです。でも、私の言葉はサクラ島を仕切る5人の存在によって縛られていて、私が言葉だけの存在であることはコウちゃんに届かないようになっていました。私は、5人の存在の目をかいくぐるよう、彼だけに届く言葉を紡ぎました。

わたしの将来の夢はピエロだったんだよ。初めておばあちゃんのお化粧箱をあけた時
たしか思ったの。甲子園を目指そうって。だって思わない?松坂投手だってね、こう
しえんから始まったんだよ。今じゃ60億円投手だけど、マルコメ坊主だった時が、あ
さくら南に憧れた時期があったんだよ!それを考えると、なんか胸がね、すっごくわ
くわくしない?オラ、なんだかわくわくしてきたぞ!アナウンサーと言う名のあさく
ら南を手に入れた彼は、ふくらはぎがにこにこ。さあ元気玉いきまっせ!世界中の元
気をすって大空に飛び立たなきゃいけないんだよ私達は!新しい~、夜を切り裂く口
づけの~、よしきのドラムソロみたいな~、目に見えぬ振動~、揺れる思い~、朝焼
け~。うん、私、国家公務員になる!

私は「よく不思議ちゃんと言われる」という設定だったので、この文章はありえるものでした。5人の存在をかいくぐり、彼に届いたのです。私は、この文章に隠されたメッセージに、彼が気付いてくれることを祈りました。当時はまだ、スマホのない時代。携帯ではなくパソコンで主にメールをしている彼なら、このメッセージに気づくはずです。しかし、彼から返ってきた言葉は、私の期待とは違うものでした。「あはは、僕もドラゴンボール大好きなり〜」。そんなメールが返ってきたと記憶しています。私は、私をやめることにしました。

結局、僕は3ヶ月ほどでサクラの仕事をやめた。単純にいやだったし、メールを打つのが遅かったのもある。あまりに返信が遅いので、後半はキャラクタを作らされていた。「おっぱいオバケ」「性の伝道師」などは、しばらくレギュラーで活躍していたと思う。

ちなみに僕が名乗っている「必需品」という名前は、この仕事をしていた時にお客さんが名乗っていたものだ。
「パンツ食べさせてよ」「いつ食べさせてくれるの?」「僕はキミのパンツを食べる。絶対にね」と、パンツに対し熱い思いを抱いていた紳士の名が「必需品」だった。僕はその熱い思いを持った男の名を冠して、いまブログを書いている。