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高2の夏のラスト400mの

思い出
高2の時に30秒間くらいエンペラータイムを味わったことがあって、残念なことにあの瞬間が30過ぎた今も人生のピークだ。

「ゾーン」って分かるだろうか。多くの場合スポーツに置いての極限の集中状態を言うのだけど、ゲームをしたり絵を描いてたりでも周りの音が聞こえなくなるような状態はゾーンだと思ってる。僕はこれを人生で2回だけ経験したことがある。

どちらも高校時代だった。当時自転車競技部に所属していて毎日アホほどペダルを漕いでいたのだけど、何度か危ない思いもした。都内ではピストだったり、「弱虫ペダル」とかの影響でロードレーサーも乗る人増えたけど、安全面ではリスクのある乗り物だってこと忘れちゃいけない。

弱虫ペダル 38 (少年チャンピオン・コミックス)

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1度目はロードレーサーによる事故の時だった。事故と言ってもひとりで転けたのだけど、下り坂でスピードが出すぎてハンドルが言うこと効かなくなった。メーターは70キロ台後半を示してて「あれ、ヤバいな」と思った。

命の危機に晒された時、感覚は研ぎ澄まされるんだと思う。路上にある小石の一つ一つまで、すごく鮮明に見えて、おかげでかわすことができた。まあ結局カーブで曲がりきれず転けるのだけど、それまでにだいぶ速度を落とせたおかげで、身体反面の擦過傷で済んだ。砂利が身体に食い込むとタワシでゴシゴシしてそれ取るのだけど、痛いんだよね。監督は笑いながらタワシ握ってたけど。あの監督はすぐに人のこと五厘刈りにしたり、乳首や耳たぶ摘んで吊るし上げてきたりで恐怖の対象だった。以前に部員の腹殴ったら肋骨折っちゃったらしくて、それ以来グーパンは止めたらしい。

もう一回が高2の夏。あの時はバンク競技っていう、ピストレーサーでの競技の時に起こった。ちなみにピストレーサーっていうのはブレーキの無い、ギアチェンも出来ない極めてシンプルな自転車のこと。競輪選手が乗ってるやつ。

僕が得意だったのはそのピストレーサーによるバンク競技のポイントレースという種目で、バンク競技中最も長い距離を走る種目だった。5周に1回ポイントが加算されるラップがあって、その合計点で争われる種目。最後のラップだけは通常の倍の加点がされる。その夏、最後の2周の後半で僕は集団を抜け出し、先頭に立っていた。

通常、そんなタイミングで先頭に立ったらすぐにバテる。自転車競技の最大の敵は空気抵抗だからだ。そのバンクの一周(400m)以上を逃げ切るなんて、まずできることじゃなかった。

でもその時、僕はゾーンに入っていた。長い距離を走った疲労が、乳酸の蓄積が、どこかに飛んでしまっている状態。仲間内では「かかってる」なんて表現することもあったのだけど、それが永続的に続く感じ。ひとりで走ってる感覚だった。抜かされる想像ができない。結局、そのまま1位でゴールラインを割った。

しばらく「なんだ今の」って放心するような感覚だった。よく分からなくて周り見渡したら部員がワーワー言ってて、監督が金網よじ登って拳突き上げてた。それ見たら我に返って、僕も拳を突き上げた。

ゴールラインは1位で割ったのだけど、総合点で僕は結局2位だった。そういう競技なのだ。監督に、「てめえ!」と言われ何故か怒られたのだけど、あの瞬間の感覚ってそれ以降味わえたことない。金網よじ登ってる監督には笑えた。

あの瞬間をもう一度みたいなことを思って生きてきたのだけど、だいぶ経ってしまった。今はモフモフした生き物を飼いたいと思っている。元気かなみんな。