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『マンガ大賞2015』ノミネート全14作品感想

 ひと通り読んだので感想書いていきます。

(以下あいうえお順)

◆ イノサン/坂本眞一

フランスの死刑執行人を、200年以上にわたって輩出してきた家系サンソン家。その4代目シャルル・アンリ・サンソンを主人公に描かれる。
イノサン 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

まあよくぞこんなテーマで描こうと思ったなと。処刑が娯楽だった時代のそれだから。写実的な絵柄も相まって、エログロの極北と言えるような仕上がりになっている。
と同時に、独特の恍惚感がある漫画でもある。読み手がというより、登場人物、あるいは作者もそういう状態で描いていそうというか。

演出がぶっとんでるからかもしれない。見開きで自らの無垢さを強調する主人公や、処刑中に突然バイオリンを奏でる回想が始まるなど、普通の感覚じゃ到達しない表現で物語られる。
考えてみれば前作『孤高の人』にもそういうところはあったような気がする。いまいち思い出せないので言及やめるけど。画力はその時点で抜群だった。

残虐な処刑シーンが多く描かれるので、読み手は選ぶ漫画かもしれない。ちなみに、それを緩和する為に主人公の声をスピードワゴン小沢で脳内再生したら意外としっくりきました。異なる趣の漫画としても楽します。

◆ 王様達のヴァイキング/さだやす・ストーリー協力 深見真

「すごく透けてて綺麗だから…」という理由で、バイト先のおでんの大根を連日眺めていたところ、クビになった主人公。しかし彼には天才ハッカーというもう一つの顔が。そんな彼に目をつけたエンジェル投資家との「世界征服」の話。
王様達のヴァイキング(1) (ビッグコミックス)

超絶コミュ症かつ天才ハッカーである少年が、クラッキングでむちゃくちゃやるのだけど、それを手助けしつつ育成するエンジェルおじさんとの組み合わせが熱い。他にも少年とゴリラくん、少年と警察の青年など、熱い組み合わせがある。ホモな話ではない。

ラブコメは無いけど、『東京トイボックス』シリーズっぽいかも。実際、作中に同作のコミック本が並んでたりするし、巻末の用語解説も似てる。でも『王様のヴァイキング』はクラッキングを武器に戦う話なので、よりテクニカルな印象。

第1巻がいい感じに纏まってる。でも2巻以降もパスワードを破ろうとして破れないからスパコン使ったり、警察を顧客にしようとしたり、ATMをクラッキングしたりで熱い。

ストーリー協力の深見真って、アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』の脚本の人なのか。
続きを読むかは別にして、第1巻は手にとって損無いと思う。

◆ かくかくしかじか/東村アキコ

傑作……と言い切りたいのだけど、雑誌連載追いかけてないのでその評価は最終巻待ちです。
かくかくしかじか 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)

著者と絵の師匠との関係を中心に描かれる自伝的漫画。作品序盤から師匠に何かがあることは示唆されており、きっと最後はそういう形になるのだろう。女漫画家版『まんが道』であると同時に、母の代わりに師匠を描いた『東京タワー』でもある。

コミカルな自伝的漫画を描けるのは『ひまわりっ 〜健一レジェンド〜』の時点で既に示していたわけだけど、まさかこういう哀切まで描くようになるとは思わなかった。

最終巻次第だけど、4巻までの出来を落とさず幕を下ろしているのであれば、自伝漫画・漫画家漫画に置いて屈指の名作だと思う。

◆ 累/松浦だるま

変身ヒロイン女優もの。ただし嫌な気持ちになるタイプの。
累(1) (イブニングコミックス)

主人公は醜い容姿の少女。その亡くなった母親は、伝説的な女優だった。その母の残した口紅には秘密があって、ひと塗りしてくちづけをすると、一定時間相手の顔を奪う(交換)することができる。この口紅の力を使い、醜い容姿の少女は日の当たる場所に這い出ようとする。

序盤は読んでてしんどい印象だった。その容姿によって受けるイジメは、『聲の形』あたりに比べると稚拙な印象もある。ただ、巻が進み口紅の特性や登場人物の増加によって、事態は複雑化していく。4巻時点では顔の交換相手は植物人間化し、ヒロインとは異なる不幸を背負った腹違いの妹も登場。ドロドロと、なかなか面白いことにはなっている。

ヒロインは本来の容姿のみならず、虐げられた結果か、内面も醜い。感情移入という面だと、僕にはできなかった。
でも、ずっぽりヒロインに感情移入できる人もいるだろうし、昼ドラが好きな人あたりには熱烈に支持される漫画なんじゃないだろうか。

◆ 月刊少女野崎くん/椿いづみ

ノミネート作品中、唯一の4コマ漫画。1ページに二編じゃなく、横長のコマで1ページに一編。
月刊少女野崎くん 1巻 (デジタル版ガンガンコミックスONLINE)

ヒロインが意を決して告白したところ、それを告白とは受け取ってもらえず、気づいたら実は少女漫画家だったその少年の家でアシスタントをしていた、というのが入り口。

くだらないけど笑える。漫画制作をネタにしつつ、学園物も兼ねるというハイブリット。目新しさは特にないかも。でも、主要キャラはみんないい感じにふざけてるし、巻が進んでも品質安定な印象。

こういうタイプの漫画が大賞とることは無いだろうけど(おい)、オンライン連載でもノミネートされるのは今後どんどん普通になっていくんでしょうね。

ここで最新話が読めます。↓
月刊少女野崎くん - 漫画 - ガンガンONLINE | SQUARE ENIX

個人的にはちょっとずつ、小休憩とかで読みたい漫画。

◆ 聲の形/大今良時

受賞歴を考慮せず、漫画としての総合力で選んだらこの漫画が大賞だろうという気がする。
聲の形(1) (週刊少年マガジンコミックス)

聴覚障害によりイジメの対象になってしまった少女と、その主犯格でその後イジメを受ける側になった少年を中心に描かれる。少年の贖罪の物語であり、イジメに端を発した複数の少年少女の苦闘の物語。

まあ上手い。絵は最初から上手いし、物語の為に非情にもなれる。出てくるキャラクタはみんな個性的過ぎるくらいだし、演出もちょっと新しく感じた。顔の×印や動揺した時のグラグラ、少ししか言葉が聞き取れない表現とか。
余計な解説やキャラクタ紹介挟まなかったのも偉い。そして7巻で終わらせたのは編集部の英断だと思う。
苦闘の物語だけど、「夏休みに映画を撮る」というイベントなど、青春群像としても楽しめた。あと、ヒロインの妹はちょっと冬目景漫画に出てきそうなキャラクタだったな。これどうでもいいか。

無理やり難を挙げるとしたら、主人公のハーレムもの的鈍感設定だけど、こうしなかったら別な方向に物語行ってただろうし、仕方ないと思う。
これだけ難しくて新しいこと挑戦してこの完成度なら、そりゃ「このマンガがすごい!」で1位獲るわなと思った。

◆ 子供はわかってあげない/田島列島

夏休みに繰り広げられる、ミステリ要素ありのガールミーツボーイ。甘酸っぱいです。
子供はわかってあげない(上) (モーニングコミックス)

読んでて、ドラマ『木更津キャッツアイ』を思い出してなんでだろうと思ったのだけど、小ネタの量やパロディが似てたのかも。作品の雰囲気が似ているわけではない。

絵柄は素朴。近い絵柄だと『花田少年史』や『団地ともお』が思い浮かんだのだけど、違うか。違うな。可愛さに歯止めがかかった岩岡ヒサエっぽい雰囲気かも。

この作品については以前に別記事で書いてるんで、ちょっと短めで。気になった方はそちら読んで下さい。

いちいちずっと、ちょっと変だけど、柔らかくて良い漫画だと思います。

◆ ドミトリーともきんす/高野文子

ノミネート14作の中では異色。エンタメ性が薄く、サブカル色が強い。
ドミトリーともきんす

母と子が運営する学生寮「ともきんす」。そこに20世紀の科学者が住んでいるという設定。彼らの著作から着想を得た短編…ではなく、彼らの著作を紹介する為の短編がまとまった一冊になっている。つまり、読書案内漫画なわけです。

近い作品が思い浮かばないのだけど、序盤の読後感は榎本俊二の『ムーたち』読んでるみたいだった。シュールに感じてしまった。だけど内容は科学的・数学的な著作の紹介なわけだから、僕の理解が及んでないだけなんだと思う。中盤以降は読み方が分かったからスムーズに読めた。

僕が高野文子の良い読者じゃないだけかもしれないけど、以前の著作を想像して読むと肩透かしくらう気がする。

何気に本の大きさがワイド版『風の谷のナウシカ』並みなので注意です。不特定多数におすすめはできませんが「このマンガを読め!」で1位なのは納得という種類の漫画。

◆ BLUE GIANT/石塚真一

「ブルージャイアント」とは、”あまりに高温なため赤を通り越し、青く光る巨星。青色巨星のこと”(作中台詞より)。
BLUE GIANT(1) (ビッグコミックス)

音楽漫画で、ジャンルは「ジャズ」。高い技術を要しオシャレな印象のあったジャズなのだけど、この漫画は泥臭い。ひたむき過ぎる努力が描かれ、それは殆ど業だと思う。

「スゲー…3日目にして楽器からいろんな音が出る…」とかさ、「世界一のジャズプレーヤーになれますか!?」だったり。なんかくるしくなる。「お前、本気でミュージシャン目指してんのか?」に対しては「なるよ。オレならなれる」だもん。くーっ!

3巻、音楽の先生のピアノと、2人で校歌やるシーンとか、青臭すぎてたまらんかった。
カッコよかったり綺麗だったりじゃない音楽漫画。泥臭くて青臭い。こういうのはかえって新鮮だと思う。

◆ 宝石の国/市川春子

あえて雑に説明すると、人格のある鉱物(宝石)人間が、月からの敵対者と戦う話。あらすじ解説が意味の薄い漫画だと思う。
宝石の国(1) (アフタヌーンKC)

まあ綺麗というか、臭いを感じない世界観。僕は面白く読めたけど、好みは別れる漫画だと思う。
女性のが楽しめる作品かもしれない。CLAMPの漫画や幾原邦彦のアニメ作品が好きな人はハマりそう。わかんないけど。

3巻から読みやすくなった気がしたけど、これは季節が冬になって背景が白っぽくなったからなのかも。

ここのブログの人がこの漫画の装丁について言及してるんだけど、確かにもし買うとしたらデータじゃなくて紙の本で買うべき漫画だと思う。所有欲というと大げさだけど、その方が愛着はもてそう。
第1話だけ試し読みできるから、読んでからがいいかも。

宝石の国 / 市川春子 - アフタヌーン公式サイト - モアイ

◆ ボールルームへようこそ/竹内友

社交ダンス(競技ダンス)漫画。社交ダンスって大人な踊りの印象があったのだけど、この作品はすごく真っ当な少年漫画。
ボールルームへようこそ(1) (月刊少年マガジンコミックス)

たぶん大人な踊りの印象を僕が持っているのは、昔TVで観た「ウリナリ芸能人社交ダンス部」の影響だと思う。南原と杉本彩のダンスは艶やかだったのだけど、若い人には響かないエピソードかもしれない。
あと、昔ジャンプで『ダブルアーツ』っていう漫画があって、二人が手つないで舞いながら戦うのだけど、この漫画読んでたらそれも思い出した。……ダンス漫画なら『昴』とか、そういう例を出すべきですね。

しかし競技ダンスは良いテーマだと思う。スポーツを突き詰めた際の熱量も、ペアでの関係性や役割も描ける。ダンス経験が無いので分からないけど、きっと経験者しか知りようのない感覚がとても多い競技なんだろう。読んでてそう思わされた。

まだ初心者の主人公がペアの少女を勝たせるべく、自らが額縁になり花を引き立たせる、3巻4巻の「花と額縁」はちょっと新手の高揚があった。
ダンスの臨場感を際立たせる、緩急があって流れるようなコマ割も魅力の一つだと思う。

◆ 僕だけがいない街/三部けい

「リバイバル(再上映)」という武器を持って臨む、現在と過去を行き来しながらの、ある事件の犯人探し。
僕だけがいない街(1)<僕だけがいない街> (角川コミックス・エース)

何か「悪いこと」が起こる時、何度もその瞬間が繰り返される現象「リバイバル(再上映)」に悩まされる主人公。彼には幼い頃に自ら蓋をした記憶があった。その記憶と向き合おうとした時、大きな不幸が起こる。「戻れ時間、起きろリバイバル」。強く念じると、今までとは比べ物にならない時間の逆行が起こる。

タイムスリップものでやり直しの物語なわけで、最近の漫画だと『アゲイン‼︎』が近い。ただ「リバイバル」という概念はやや目新しく、また青春やり直しではなくミステリだ。

今の記憶を持った状態で、10年前だったり20年前だったりの「あの頃」に戻りたいというのは、多くの人が考えることだと思う。そしてそういう願望が反映された作品は「強くてNewゲーム」的な、自己実現の物語になることが多い。ただこの作品は、メインに犯人探しを持ってきたミステリ。その上で、上手いこと郷愁にも訴えかけてくる。ノスタルジックな感覚になれるという点では、『下弦の月』や少年時代の『20世紀少年』、『おやすみプンプン』っぽいかもしれない。

僕自身は犯人探しや推理がメインの物語って得意じゃないのだけど、それでも結構楽しめた。心の声が言葉になって出ちゃうの、くどいけど好き。

◆ 僕のヒーローアカデミア/堀越耕平

少年ジャンプの看板が似合いそうな漫画。『ワンピース』というでかすぎるそれがありますけど。
僕のヒーローアカデミア 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

ある日を境に「個性」と呼ばれる特殊能力を持った子供達が生まれるようになり、いつしかそれが当たり前になる。その当たり前になった世界で、彼らは「ヒーロー」と呼ばれた。敵対者と戦うヒーロー達の物語。

少年ジャンプ!って感じがする。ネオヒーローものとでもいうべき今の時代のヒーロー漫画なのだけど、何故か懐かしい。「努力・友情・勝利」っていう、ジャンプ三本柱の色が強いからなのかも。今後はどの程度「努力」が描かれるか分からないけど。

同誌の『ワールドトリガー』もヒーローが敵対者と戦う話なのだけど、そちらは少年ジャンプというより『鋼の錬金術師』みたいな雰囲気の漫画。チームでの戦いやバトルに置ける設定の作り込みは、『ワールドトリガー』に断然部がある。

『僕のヒーローアカデミア』はオレンジ色な印象の漫画。明るく熱く、能力で戦う。
『ハンター×ハンター』が載っていなくても、あるいは『ナルト』が終わっても、少年ジャンプで連載を追いかけたいと思わせたこの漫画や『ワールドトリガー』、その価値は大きい。

◆ 魔法使いの嫁/ヤマザキコレ

異形の魔法使いと、その魔法使いに買い取られた少女の話。
魔法使いの嫁 1 (コミックブレイド)

当初、魔法使いは少女のことを弟子にすると言っていたが、のちに嫁にもすると言い出した。
奇をてらっているのは人の身体に角の生えた頭骨が乗った魔法使いの容姿だけで、他の構成要素はファンタジーの王道中の王道と言っていいものばかり。これは悪い意味では無いのだけど、20年前の漫画だと言われても特に違和感ない。
そういった意味では、この作品の最大の特徴を印象的に強調できる「人外×少女」というキャッチフレーズを考えた人は偉い。

2つ名にカタカナでの別称をルビ表記したり、呪文詠唱だったりがラノベっぽい印象だった。
2巻までの時点では雰囲気を楽しむ漫画だと思う。

手紙がシュレッダーかけたみたいに細くなって、密集して鳥のように羽ばたいていくシーンは良かった。

以下、私的順位とそれに伴う雑感

 1.『かくかくしかじか』/東村アキコ
 2.『聲の形』/大今良時
 3.『BLUE GIANT』/石塚真一
 4.『子供はわかってあげない』/田島列島
 5.『ボールルームへようこそ』/竹内友
 6.『宝石の国』/市川春子
 7.『僕のヒーローアカデミア』/堀越耕平
 8.『王様達のヴァイキング』/さだやす・ストーリー協力 深見真

9位以降は悩むのでここまでで。


上位3作品は自分の中だと固い。「完結加点」ってあると思うんだけど、それ考慮しても順位変わらない。『BLUE GIANT』は今後が楽しみ。

4位から8位は読むタイミングによって順位変動する僅差だった。全作面白い。9位以降にしても、そりゃさすがに「マンガ大賞」にノミネートされる作品だわなと。『僕だけがいない街』は僕の好みで後ろの方だけど、上位にいても不思議じゃない。

個別の感想のところでも書いたけど、漫画としての総合点だと『聲の形』が頭一つ抜けてる気がした。でも「このマンガがすごい!」のオトコ編1位作品だし、選考員の心理考えるとW受賞って難しい気もする。どうなんでしょう。

『かくかくしかじか』は笑えるし込み上げるものあるし、ちょっと凄かった。最終巻次第では本当に傑作だし、そうなるとこのジャンルでの現代最強の漫画家は、東村アキコだと言わざる得ない気がする。


感想にしろ順位にしろ物申したいという人は多いと思いますけど、個人の好みということでひとつ。公式の順位発表は3月の下旬みたいです。

それにしてもあれですね。漫画って本当に素晴らしいものですね。←
それでは皆さん、さよなら、さよなら、さよなら〜。

2016年版はこちら ↓
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