健康で文化的な最低限度の生活
面白い。生活保護入門の教科書としても凄く有意義な漫画だと思う。
主人公(えみる)は、福祉事務所で「生活保護」を担当することになった新人女性。「ケースワーカー」として、相談援助の第一線で働くことになる。
様々なワケありの人(生活保護受給者)を対象とする仕事だけに、陰鬱な雰囲気になりそうなテーマだけど、主人公・えみるの「天然・マイペース・いい意味でボンクラ」などと言われがちな性格設定のおかげもあって、良いバランスで描かれている。本人気にしてるみたいだけど。
しかし配属早々、担当の一人が自殺する。「よくあること」、「責任感じることない」となぐさめられ、「ここだけの話、一ケース減って良かったじゃん」とまで語られる。主人公も、「月13万8千円ちょっとの生活保護費は…国民の血税から支払われていたわけだし…」と納得しようとする。だが遺品整理だろうか、自殺した人物の部屋の中に入った際、えみるは生活の工夫に気づく。
ここまでが第1話。2話以降は多様な生活保護受給者とのやりとりや、新人ケースワーカー達の葛藤が描かれていく。
生活保護ではないが、僕自身も近年「職業訓練」に通ったことがある。職業訓練は無料で職業に必要な技能や知識を勉強させて貰える制度のこと。仕事をやめた後、失業給付を貰いながら勉強させてもらった。
作中「生活保護ー『命を守る最後の砦』」という言葉が出てくる。この言葉に近いことを、職業訓練校時代に担当だった事務員の方も言っていた。僕はそういう意識が無かったので驚いたのだけど、国民の税金を使って運営されていることと、その時点で職を失っているという点では確かにそうだとも思った。
実家の隣の家のおじさんも、生活保護を受けている。持ち家なので「住宅手当」はこの場合支給されないのか、9万円くらいの額だと聞いた気がした。地域によっても支給額は違うのかもしれない。
少しそれるが、隣の家のおじさんは犬を飼っている。2匹飼っていて1匹は放し飼いにしているのだが、その犬が父親の拾ってきたチャボを食い殺すという出来事があった。その際に母親から来たメールがこれ。
父は拾ったチャボの脚に紐をつけて散歩をさせるいったコミカルなことをしていたらしく、後でこれを聞いて残念に思った。
飼い犬のもう一匹はメスらしい。一時期はこちらも放し飼いだったのだが身籠ってしまい、2回子犬を産んでからは繋いでいるということだ。子犬は2回合わせて8匹ほどが保健所によって処分された。この話はいたたまれない気持ちになった。
生活保護は受けざる得ない人もいて、それ自体は必要な制度だと思う。生活保護受給者が悪なわけじゃなく、悪は「貧乏」だ。
問題としては、「どう使うか」、「誰に渡すか」という話なのだと思う。作中でこういう指摘がある。
一般に「浪費」と捉えられがちな支出については、もっと厳しくてもいいかもしれない。「生活保護じゃお酒が飲めないから働く」、「パチンコがしたいから働く」は、むしろモチベーションとして健全な気がする。
犬を飼うのも人生の幸福の為に有意義だと思う。ただ、もし生活保護受給者に対して「ペットの避妊手術の義務」があれば、悲しい出来事は減らせるかもしれない。
そして、一番必要と感じる存在・ホームレスに、生活保護が行き届いていないというのもある。これに関しては作中で触れられている箇所もあり、次巻以降もしかすると扱われるかもしれない。
セーフティネットの知識を得る教科書として、あるいはこの問題について考えるキッカケとしても面白い漫画だと思う。
- 作者: 柏木ハルコ
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2014/08/29
- メディア: コミック
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