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まおゆう的な

魔王「では最後にもう一度だけ聞こう。私の配下に着くつもりはないのだな?」

勇者「当たり前だ! 俺は人の下で働くつもりはない!」

賢者「そうよ! 勇者はその辺、決定的に適性ないんだから!」

戦士「こいつは行動力のあるクズだ!」

顔を見合わせて、微笑み合う3人。魔王は顎に手を当てる。

魔王「この世界の半分をお前にやるといってもか?」

激昂する賢者と戦士。

戦士「バカにするな!」

賢者「私達はそんなものの為に戦ってない!」

戦士・賢者「だよな、勇者」

戦士と賢者が振り向くと、勇者は膝を震わせ、ヨダレを垂らしながら微笑んでいる。

戦士・賢者「めっちゃ心動かされてる!」


勇者に掴みかかる戦士。

戦士「おい嘘だろ、魔王を倒して世界を救う、それが俺達の使命じゃないのかよ?」

賢者「苦しみから人々を守る、その為に長い旅をしてきたんじゃない!」
   
勇者「だったら魔族を殺してもいいって言うのかよ」

賢者「え、」

勇者「魔族の犠牲の上に成り立つ人々の幸せは、本当の幸せなのか?」

戦士「お前、今更なに言って」

勇者「今まで見てきただろ? このワールド・カントウを旅して、7つの国を回って。そこにいた悪は、本当に魔族だけだったか?」

賢者「それは…」

勇者「エルフの耳を切り落とし、快楽の道具にしていた王族は魔族だったか?」

賢者「……」

戦士「しかし、奴らの殺している数の方が」

勇者「戦争で人が人を殺した数よりは少ない!」

手にしていた盾を地面に叩きつける勇者。神妙な表情の戦士と賢者。

勇者「ウツノミヤシティで俺達を助けてくれたゴブリンがいたろ」

賢者「…ケンタウロス競馬で不正を疑われた時よね」

勇者「あいつは言ってくれたよ。ケンタウロス競馬を愛する俺達は、種族は違えど仲間だって」
   
切ない表情の勇者。

勇者「マエバシシティのケンタウロス競馬で、ホルモンライスごちろうになったこともあったよな、ゴブリンに」

微笑んで戦士を見る勇者。

勇者「タチカワシティのケンタウロス競馬では、ゴブリンに」

賢者「助けてくれてるの全部ゴブリンじゃない!」

戦士「ことごとく競馬場がある街じゃねえか! このクズ」

勇者「なんでか、ゴブリンとは馬が合うんだよなあ」

両手を馬の前足のように動かしながら、ヒヒーンと呟く勇者。

賢者「その動き止めて!」

魔王は玉座に座ったまま、巨大な杖の先で地面を叩く。

魔王「さあ決めろ勇者。共にこの世を支配するか、ここで殺されるかを」

勇者「聞きたいことがある」

魔王「なんだ?」

勇者「俺によこす国は、7つの内どれだ?」

戦士「おい勇者!」

賢者「あなたまだそんなこと」

魔王「ノウス・カントウだ」

戦士・賢者「は?」

魔王「半分やるというのは偽りではない。ノウス・カントウをお前にやる」

戦士「なっ」

賢者「正気なの?」

勇者「笑止!」
   
腹から出すタイプの声を発する勇者。訝し気な目つきの魔王。

勇者「ランドトチギ、ランドイバラキ、ランドグンマだと? どこが世界の半分なんだ! 後進国ばかりじゃないか!」

戦士「そういうとこ良くないぞ」

ニヤリとする魔王。

魔王「ランドサイタマもつける」

衝撃を受ける3人。

賢者「7国の内、4国をくれる?」

勇者「ランドサイタマということは、イケブクロシティも寄越すということだろ?」

魔王「イケブクロは違う」

思索に耽り出す勇者。魔王は戦士と賢者に視線を向ける。

魔王「私は知っているぞ。お前達2人こそが、人間界の用する最大戦力なのだろう?」

冷めた目つきになる戦士と賢者。

魔王「お前達の戦いは、この城にいながら眺めていた」

魔王が片手をかざすと、羽の生えたノートPCが飛んでくる。

魔王「私の主たる配下を倒していたのは、常にお前達2人のどちらかだった。人間魔道兵器、賢者、お前と」

賢者「その呼び名はやめて!」

魔王「人類最強の木こり、戦士、お前だ」

戦士「俺の二つ名ダサすぎるだろ」

勇者に視線を戻す魔王。

魔王「勇者、お前のことも見ていた。いつだってお前はこの2人の背後に身を隠し、戦闘は指示を出すだけだったな」

ピクッと反応する勇者。

魔王「お前が各地でなんと呼ばれていたかも知っているぞ。確か、ニセ勇者だったか?」

3人を見渡す魔王。

魔王「残念という概念の具現化、という二つ名も耳にしたことがある。旅立つ前は職に就かず、近隣の住民から施しを受けて生活していたらしいな」

ぷるぷると震えだす勇者。魔王はノートPCの画面に顔を戻し、キーボードをタイプする。

魔王「ん? この、生まれてきたという悲劇というのは、村にいた頃の二つ名か?」

勇者の目からポタポタと涙が落ちる。

賢者「ねえ、もうやめたげてよ!」
   
玉座の肘おきに手を当て、立ち上がる魔王。

魔王「しかし、それでも私は、勇者こそを手元に置きたい」

勇者「え」

赤くなった目を魔王に向ける勇者。

魔王「各地でお前が魔物の心を掌握する術を、私は見てきた。ゴブリンだけではない。幾たびもお前は戦闘を避け、代わりに人と魔族との距離を縮めてきた」

勇者「……」

魔王「私は、敵対する異種族同しの心をも折衷する、お前の超人間的な資質を、誰よりも高く評価している。恐らく、この世界の誰よりもな」

勇者「魔王……」

魔王と勇者の背景に花が飛ぶ。

戦士「おい勇者! 騙されるな!」

賢者「そうよ、こいつは私たち人間を滅ぼそうとする悪なのよ!」

魔王「私は、人を滅ぼした先にあるのは、魔族の衰退だと考えている」

固まる戦士と賢者。勇者は魔王を直視し続ける。

魔王「我らが人を滅しようとも、恐らく同じことが起こるだけなのだ。かつてこの世界から一度魔族が消えた際に人の間で起こったこと、お前達も知っているだろ?」

賢者「七国大戦…」

魔王「元々争いを好む我ら種族は、人の数が減れば共食いを始める。共食いが始まれば、我らの力は弱まる。そうした時にお前達2人のような存在が現れ、魔と人の力関係は 何度も逆転してきた」

巨大な杖で賢者と戦士を指す魔王。

魔王「私は、一時的なものではなく、本当の意味で世界を支配する、真の魔王となりたい。その為には勇者、お前の力が必要なのだ」

目を瞑り、息を吐く勇者。手にしている剣の柄を弄り、ガチャガチャと音を立てる。

勇者「それじゃあやっぱり、世界を2人で支配しようというわけじゃあ無さそうだな。俺を利用して、自分がってことだろ?」

険しい目つきになる魔王。

勇者「言ったろ、俺は人の下で働くつもりはない」

鼻の下を指でこする戦士。

戦士「人じゃなくて、魔王だけどな」

賢者も微笑む。

魔王「残念だ。ここで滅べ」

魔王が杖をかざすと、途端に空間が重くなる。勇者は手にした剣から刀身を外す。刀身は地面に落ち音を立てる。

勇者「真の魔王となるのは俺だ!」

戦士・賢者「は?」

刀身の無くなった勇者の剣の柄から、黒い光が伸びる。